市街化調整区域の土地は売れにくいとされています。、実は特定の条件や工夫次第で売却が可能です。本記事では、市街化調整区域の土地売却を成功させるためのポイントを解説します。
市街化調整区域とは何か?
定義と目的
市街化調整区域は、都市の無秩序な拡大を防ぐために設けられた地域です。この区域では、宅地造成や住宅、商業施設の建設が制限されています。
市街化調整区域の目的は、市街化の抑制です。また、農地や森林を保全し、その地域の自然環境の保護を図るという目的もあります。
市街化調整区域における土地の利用は制限が多いため、建物を新たに建築したり、農地の転用は基本的にできません。そのため、建物の建築・農地転用には都道府県知事等の許可が必要です。
市街化調整区域と市街化区域の違い
市街化調整区域と市街化区域の違いは、都市計画における土地利用の方針にあります。まず、市街化区域は、住宅や商業施設の建設が積極的に進められる区域です。そして、都市の発展を促進する場所として位置づけられています。
一方、市街化調整区域は、むしろ都市の過度な拡大を抑制するために設けられた区域で、計画的な都市開発のために必要最低限の開発しか許可されていません。このため、同じ不動産であっても、区分が違えばその不動産の価値や利用可能性は大きく異なります。
市街化区域では新築や商業施設の建設が可能であることに対し、市街化調整区域では、一般的にそれが許可されることは少ないです。この根本的な違いが、市街化調整区域の土地を「売れる」かどうか考える際にも大きな影響を与えます。
売れない原因
制限の多い土地利用
市街化調整区域の土地は、都市計画法に基づき厳しい制限が設けられています。このエリアでは、無秩序な都市拡大を防ぐ目的があり、開発行為には許可が必要です。
ここで言う開発許可は、土地造成だけでなく建物の建築も含まれます。新たに建築物を建設することが原則として認められていません。、許可を受ける場合でも「居住用または自己の業務用」に限るものがほとんどです。そのため、土地の活用が難しく、これが売れない原因となっています。
結果として、商業施設や住宅建設の需要が低く、買い手を見つけるのが困難です。
建物が建っていても再建築できないケース
分家住宅や農家住宅など、建築に際して人の要件(属人性)が必要な建物は、他人が購入して居住することも、再建築することもできません。
属人性のある建物(分家住宅、農家住宅)は、他人への賃貸・売却禁止
分家住宅や農家住宅は、許可を受けた人とその家族のみが居住できます。しかし、家族の範囲は原則、配偶者・子・孫までです。そのため、親や親戚でも同居することはできず、賃貸や売却も禁止されています。
実務上は売買できてしまう
ただ、他人への売却禁止は都市計画法の規制であり、不動産登記法では都市計画法のチェック機能が無いために建物の所有権移転登記はできてしまいます。そのため、実際に法規制を知らずに購入して住んでいる場合もあります。
分家住宅を他人が買ってしまうと・・・
前述のように、分家住宅でも他人が買うことはできてしまいます。しかし、分家住宅を買ってしまうと再建築の際にトラブルが起こります。なぜなら、市街化調整区域で専用住宅建築のための建築確認申請を行う場合には、「建築主が市街化調整区域で建物を建築できる要件を持っているか」が問われてしまい、分家住宅の許可を受けた人(もしくはその相続人)以外からの建築確認申請は受理されません。
住宅ローンが借りにくい条件
市街化調整区域の土地は、住宅ローンの審査を通過しにくいという悩みもあります。新築不可や土地利用に制限が多いという点が金融機関にとってはリスク要因となるため、厳しく審査されます。
このため、購入希望者が住宅ローンを利用しにくくなってしまいます。それにより、購入者が限られ、取引が進まない状況が生まれやすいです。
生活インフラ不足
市街化調整区域は都市化を抑制しているため、生活インフラが未整備な地域が多く、特に愛知県では下水道の未整備区域が多いです。
さらに、公共交通機関の不足、都市ガス供給の不十分さなどが挙げられます。そのため定住を考える方にとっては不便な立地と映ることが多いです。このような要素が原因で、売り手は土地や不動産を手放すことが難しくなっています。
市街化調整区域で物件を売る方法
専門の不動産会社に相談
市街化調整区域の土地を売却する際には、専門の不動産会社への相談が非常に重要です。
市街化調整区域は、一般の土地と異なり、開発や建築に厳しい制限が課されています。そのため、通常の不動産市場と同じ方法ではなく、市街化調整区域の特性に精通した専門の不動産会社が役立ちます。
市街化調整区域の売却を依頼する場合には、物件情報に市街化調整区域の案件が掲載されている、地元の老舗の不動産業者などがおすすめです。そのため、「大手だから安心」とは考えずに、幾つかは相談してみる必要があります。
開発許可の取得(用途変更:審査会基準16号)
前述のとおり、人に要件(属人性)のある建物は他人が再建築できません。しかし、売主に下記のようなやむを得ない理由があれば、用途変更の許可(愛知県開発審査会基準第16号)により売却できる可能性があります。
- 建物所有者が亡くなって住宅ローンが払えなくなった
- 建物所有者が破産した
- 住宅ローンを滞納して競売にかけられた
- 病気等で居住が難しくなった
これ以外にも認められる場合はあります。ただ「現金化したい」、「便利なところに住み替えをしたい」等の事情では基本的に認められません。
建物は10年以上違反なく使っている、無断での増改築が無いなどの条件も必要です。詳しくはこちらの記事を参考にしてください。
売れやすい市街化調整区域の特徴
既存宅地(基準17号)の土地
既存宅地とは、昭和45年11月23日以前から現在まで宅地である土地のことです。愛知県開発審査会基準第17号に規定されており、既存宅地であれば「誰でも」専用住宅の建築が可能です。また、一度許可を受けていれた再度許可を取らなくても建築確認申請が可能です。
そのため、市街化調整区域の土地で既存宅地は最も売れやすい土地と言えます。
開発許可取得済みの土地(分譲地)
市街化調整区域内でも開発許可を取得した土地は、通常の分譲地として利用できます。インフラ整備が進んでいることが多く、新しく購入しやすいと言えます。
このような土地は、不動産市場においても評価が高く、買主にとっても安心して取引できることから、売れやすい特徴を持っています。
34条11号地域(誰でも買える、建てられる)
都市計画法34条11号地域は、誰でも購入して建築することが可能です。許可は必要ですが、分家住宅や農家住宅などの属人性はありません。
愛知県内では岩倉市、新城市に存在します。誰でも購入可能なため、他の市街化調整区域と比べて売れやすい傾向があります。
愛知県で市街化調整区域の土地が「売れる」かどうかのポイント
既存宅地かどうか?
市街化調整区域内の土地が売れるかどうかを判断する際、まず確認すべきポイントはその土地が既存宅地であるかどうかです。確認するためには、土地・建物の登記簿謄本が必要です。登記簿謄本は法務局、または登記情報提供サービスのサイトでも取得できます。土地の所在地番が分からない場合は、固定資産税課税明細書を確認しましょう。
既存宅地かどうかを簡易的に確認できるポイントは下記の2点です。
- 土地の地目が昭和45年11月23日以前から宅地(土地の登記簿の『地目』の項目を見ます)
※土地の地目が宅地以外の場合は、建物の登記簿謄本で新築年月日を確認します - 周りに建物が50戸以上存在して、建物同士の距離がすべて50m以内
まずはこの2点を確認してみましょう。間違いなく昭和45年11月23日以前から建物が建っていたものの、土地登記簿などの記載内容が違う場合には、地目変更登記が漏れている可能性もあります。その場合には行政書士・土地家屋調査士に相談しましょう。
また、昭和45年11月24日以後に宅地となっている土地は新宅地と呼ばれます。これは、分家住宅や農家住宅などの許可を受けて建物を建てて宅地化した土地で、既存宅地と区別されます。
用途変更(審査会基準16号)を満たすやむを得ない事情があるかどうか
売主側に用途変更(愛知県開発審査会基準第16号)が取れるような事情があれば、建物(+土地)が「売れる」可能性が高くなります。
16号許可は買主側が行う申請ですが、許可の重要な要素は売主側にあります。前述のとおり売主側は、やむを得ない事情が必要です。
一方、買主側の要件は愛知県開発審査会基準第16号に記載されており、「現在居住している住居について過密、狭小、被災、立ち退き、借家等の事情があること。」です。これは、現在賃貸アパートや、夫婦どちらかの実家に住んでいる場合が該当します。そのため、16号許可については売主側にやむを得ない事情があれば、買主側のハードルは非常に低いと言えます。
分家住宅や農家住宅などの売却を考えている方は、16号許可の要件に該当しないかを検討することをお勧めします。
まとめ
市街化調整区域の土地は、都市計画法によって開発や建築に厳しい制限が課されるため、一般的に売れにくいという状況があります。しかし、適切な対策を講じれば売却を成功させることも可能です。
不動産会社への相談や、開発許可の取得、そして購入資金を準備できる買主を見つけることなど、売却に向けた工夫が不可欠です。また、市街化調整区域でも売れる可能性が高い土地の特徴を理解し、それらを売却の戦略に活かすことが重要です。
売主がその土地に関する制限や可能性を十分に理解し、効果的な方法で土地を手放すことが最適な道となるでしょう。