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分家住宅を市街化調整区域で建て替える際には、一般の住宅と異なる法律や制限が数多く存在します。
本記事では、許可が必要なケースや不要となる条件、手続きの流れ、違反リスクへの対処法まで、分家住宅の建て替え・増築に必要な知識を徹底解説します。
分家住宅とは
まずは、市街化調整区域で建てられる分家住宅についておさらいします。
市街化調整区域で特別な要件を持つ人だけが建築可能
分家住宅は、愛知県開発審査会基準であれば第1号にある許可要件です。
市街化調整区域決定前(愛知県なら昭和45年11月23日以前)から周辺地域に住んでいる世帯の子・孫が、結婚などであれば、許可を受けて建築可能です。
名前の通り分家のことで、昔なら長男が本家を継ぐから、二男・三男は新しく家を構える、といった状況です。
※現在は、長男でも分家住宅を建築可能です
また建て替えであれば、昭和~平成初期に建てた分家住宅のことが多いでしょう。
分家住宅に住める人は限定的
分家住宅は分家した世帯が住むための住宅のため、建築主・配偶者(夫または妻)とその子・孫(直系卑属)しか同居できません。
たとえば夫の要件で分家住宅を建築して妻のお母さんが同居する、といった利用は、決められた範囲以外の人(妻のお母さん)が住むことになり、都市計画法違反と判断されます。
この制限は建て替えでも同様ですので、注意しましょう。
分家住宅は貸借・転売が禁止
分家住宅に住める人が限定されているため、分家住宅を他人に貸す(貸借)、転売する行為は禁止されています。
分家住宅の建て替えには原則許可が必要
市街化調整区域では建物の建築が原則禁止されており、分家住宅を建てる時でも許可が必要です。
そして、いったん許可を受けた分家住宅の建て替えにおいても、原則許可が必要です。
許可が不要な例外も含めてご紹介します。
建て替えでも「新築」扱い
分家住宅の建て替えについては、市街化調整区域の原則通り許可が必要です。
本来であれば、前回と同様に「分家住宅」としての許可が必要となります。
増築も相談が必要
新築ではない増築については、敷地や用途(専用住宅)が変わらないのであれば、一定規模(愛知県の場合は元の建物の1.5倍程度)であれば、許可権者(愛知県等)に相談の上、許可不要になる可能性があります。
ただし、増築に関する建築確認申請は必要です。
専用住宅から店舗併用住宅への変更はできない
以前存在した店舗併用住宅は現在、認められていません。
そのため、専用住宅から店舗併用住宅への変更もできません。
ただし、店舗併用住宅で建てた住宅について、店舗営業を辞めたために専用住宅に変更することは可能です。
その場合は愛知県であれば16号の「用途変更」の許可が必要となります。
許可不要になる3条件とは?(愛知県版)
愛知県の分家住宅の建て替えにおいて、下記の3条件を満たせば、事前相談の上、許可不要となります。
※詳細は各自治体担当者と打ち合わせが必要です
同一所有者
分家住宅の許可を受けた建築主であれば問題なく同一所有者です。
また、建築主の配偶者や子・孫が相続人である場合も、許可を受けた地位を相続しており、同一所有者とみなされます。
また、建築主が健在の場合、子どもはまだ建築主としての地位を相続していないので、子どもだけでは建て替えできません。
その場合は、親子連名で建築確認申請を出すことになります。
子どもが分家住宅の許可を受けて新築することも可能ですが、その場合は両親が住めなくなる(居住できるのは建築主の配偶者と子・孫のみ)ので、注意が必要です。
同一用途
専用住宅で建築していた場合は専用住宅での建築となります。
同一敷地
敷地面積は許可時の面積と同一でなければなりません。
これは、敷地が変わってしまうと、元々許可されていなかった場所まで許可を受けたことになってしまうからです。
登記簿謄本を見て、建物完成後に土地を合筆していないか、地積更正登記で面積を修正していないか、確認しましょう。
実務上、実測で面積が減る場合については許可されていなかった場所が許可敷地とみなされるリスクが低いためか、同一敷地とみなされるケースが多かったです。
実測面積が増える、隣の敷地を加えて広くしたい、という場合は敷地拡大の許可(愛知県開発審査会基準15号 既存住宅の増築等のためのやむを得ない敷地拡大)が必要です。
許可不要で建て替える場合の手続と流れ
分家住宅を許可不要で建て替える場合の手続と流れは次のとおりです。
自治体との事前相談
許可不要かどうかを判断する必要があるため、許可権者に事前相談を行います。
その際、下記の資料を持参すると相談がスムーズに行えます。
1.分家住宅を建てた時の建築許可証または開発許可証(通常は建築主が所有しています)
2.分家住宅を建てた時の建築確認申請書(通常は建築主が所有しています)
3.土地建物の登記簿謄本(法務局で取得可能)
4.土地の公図(法務局で取得可能)
5.住宅地図(グーグルマップで可)
6.課税明細書(現在の状況が分かる資料として)
7.次に建てる建物の建築計画(おおよその配置、広さ)
8.分家住宅を建てた方が亡くなっている時は亡くなった方と相続人の戸籍謄本
これらのコピーを持って、予約してから相談に行くと良いでしょう(午前中のみ相談可の役所も多いです)。
不安な場合は行政書士や建築士に同行してもらいましょう。
ハウスメーカー・工務店と建築プラン確定
自治体との事前相談で、建て替えに許可不要ということが分かれば、建築プランを打ち合わせて、どんな建物を建てるかを確定させます。
施主さんには一番大変な時間ですが、家づくりでも最も重要な時間です。
自分の理想とする家を伝え、希望に叶う建築計画の提案を待ちましょう。
最終プランが確定すれば、請負契約を行います。
確定したプランを自治体に提出する
建築プランが確定すれば、配置図・排水計画図・平面図・立面図等を許可権者に提出します。
自治体の担当者は同一敷地・同一用途・同一所有者の要件を再度確認し、問題なければそのまま建築確認を提出するように指示します。
その際、「2025年6月28日 尾張建設事務所建築課 〇〇氏(連絡先 052-〇〇〇-〇〇〇〇)に許可不要の旨確認」とメモをしておきましょう。
法60条証明について(愛知県知事許可エリアは不要)
市街化調整区域の建て替えを調べていると、「法60条証明が必要」という文言が出てきます。
これは、都市計画法施行規則第60条(参照:e-GOV法令検索)に規定された証明書で、「許可不要等」であることを証明するものです。
しかし、愛知県の建設事務所(許可権者)は分家住宅等の専用住宅について、この証明書を発行しておりません。
そのため、口頭での「建て替えに許可不要」という回答だけになります。
※他の県(三重県、静岡県)では法60条証明を発行してもらえます
県によって扱いが違うので、注意してください。
(豊田市限定)裏書き取得
豊田市は建て替えが多いからか、HPで建て替えができる人とその条件を明示しています。
また、豊田市役所開発調整課に建築確認申請の資料を提出すると、裏書をしてくれるので、その裏書をもって建て替え建物の建築確認申請を行います。
市街化調整区域における既存建築物の増改築の建築確認申請について
引用:豊田市開発調整課HPより
増改築等の内容が表に当てはまる場合は、増改築の内容を確認する書類を建築確認申請書に添付し、開発調整課に持参してください。
→開発調整課で建築確認申請書に裏書します。裏書されたものを建築確認申請窓口に提出してください。
建築確認申請
事前相談後、建築確認申請を提出します。
愛知県知事許可であれば、先ほどの「許可不要の旨確認」のメモを付けて提出します。
審査機関の担当者は、提出された図面・申請人等が事前相談どおりか、自治体に確認して、後は通常どおりに審査します。
法60条証明の出る自治体であれば法60条証明、豊田市なら裏書で確認します。
着工、完成
ここから後は、一般的な建築と同じで工事着工、建物の完成となります。
敷地を増やしたい場合(許可必要)
「敷地を増やして駐車場を拡げたい」
「敷地を拡げて大きめの建物に建て替えたい」
このような場合は、敷地拡大の許可を受けて建築することとなります。
敷地拡大の許可(愛知県開発審査会基準15号等)
愛知県開発審査会基準では、第15号に敷地拡大の要件があります。
「既存住宅の増築等のためのやむを得ない敷地拡大」
他の分家住宅(基準第1号)や既存宅地(基準第17号)と同様、建築許可を受けることとなります。
許可の条件は大きく3つです。
・同一所有者かつ同一用途(専用住宅)
・敷地拡大の規模は既存の敷地とあわせて500㎡以内
・現在の既存住宅が過密又は狭小で、増改築するにやむを得ない事情がある
同一所有者かつ同一用途(専用住宅)
分家住宅を建築した時の建築主(所有者)と同じ、または配偶者や子・孫などの相続人である(同一所有者)ことと、同一用途(専用住宅)が1つ目の条件です。
古民家カフェをしたいから分家住宅を改装したい、知り合いから買った分家住宅の敷地を増やしたい、などは認められません。
敷地拡大の規模は既存の敷地とあわせて500㎡以内
元々許可を受けた敷地をあわせて500㎡以内であることも必要です。
ただし、愛知県では運用基準に書かれてはいませんが、敷地拡大する土地は既存の敷地の1.5倍までとされています。
そのため、既存の敷地が300㎡の場合は450㎡までしか拡大できません。
運用が変わる可能性もあるため、必ず各建設事務所にご確認ください。
現在の既存住宅が過密又は狭小で、増改築するにやむを得ない事情がある
15号の基準には「『やむを得ない』敷地拡大」と書かれており、「やむを得ない」事情が必要です。
そのため、5LDKの分家住宅に3人家族で住んでいて、「狭いから敷地拡大したい」と言っても事前相談でNGとなってしまいます。
たとえば同じ5LDKでも夫婦の長男が結婚後に里帰りし、長男夫婦・子ども3人と同居することになった場合、合計5人となります。
そして2世帯が住む上、子どもが中高生だと部屋数が足りない、ということもありえます。
そういった場合には敷地拡大が認められる可能性が高くなります。
敷地拡大の許可手続の流れ
敷地拡大の許可手続きの流れは、他の許可と同様に下記の手順となります。
(1)自治体に事前相談
(2)事前相談でOKが出たら建築会社と契約
(3)建築プラン確定
(4)敷地拡大の許可申請
(5)敷地拡大の許可完了
(6)建物取り壊し
(7)建築確認申請
(8)着工
(9)建物完成
建築会社との契約前に事前相談をしておくこと、建物は許可が下りるまで取り壊さないことなどが注意点です。
許可時と所有者が違う場合(原則許可必要)
分家住宅の建て替えでトラブルになるのは、許可時と所有者が違うケースです。
その場合はどうなるのでしょうか?
例外:所有者の配偶者や子・孫が相続している場合は同一所有者と同じ扱い(許可不要)
許可を受けた人(所有者)が亡くなっており、配偶者や子・孫が相続している場合には同一所有者とみなされるため、同一敷地・同一用途の条件が揃えば、事前相談で認められれば許可不要となります。
用途変更(所有者変更)の許可を受けている
愛知県開発審査会基準第16号などの用途変更(所有者変更)を受けて所有者が変わっている場合には、再度許可を取る必要はありません。
建築確認申請の際に、用途変更の際の許可証を提出すれば大丈夫です。
ここで気を付けるのは、既存の建物と用途が変わっていないか、敷地が増えていないか、建物が過大に大きくなっていないか、という点です。
許可無しに購入している
相続人でもない、用途変更の許可も受けていない場合、これは建て替え不可となります。
「市街化調整区域で許可無しに買う人なんているの?」
と思われるかもしれませんが、実はよくあります。
実際に遭遇した状況をご紹介します。
※プライバシー保護のため、多少改変しています
空き家になってたから借りていた
昭和50年代、許可を受けてXさんは分家住宅を建築しました。
平成の中頃にXさんは亡くなり、相続人のYさん(女性)は実家を出て遠方に嫁いでいた。
知り合いのつてで、ある男性Aさんが部屋を探していると聞いたYさんは、「どうせ誰も住んでいないから」とAさんに貸し出します。
そしてAさんはお金が貯まったので自分で買って家を建て替えたいと考えて相談に来られました。
しかし、よくよく調べてみると、AさんはXさん・Yさん家族と何の関係もないため、建て替えができないどころか、現在居住していることが都市計画法違反となっていました。
許可を受けたXさんが亡くなっていたためYさんは貸借禁止なども知らなかったため、特にペナルティはありませんでしたが、Aさんはその家を出ざるを得なくなりました。
許可を受けたハズが名前が違う??
こちらも昭和50年代に分家住宅を建てた男性Mさん。
建物が古くなったために建て替えしようと建築会社経由で愛知県に相談すると「許可を受けたのはTさんなので、Mさんは建て替えができません。」と言われました。
Mさんが記憶を辿ると・・・
当時の建築会社から、「農地に家を建てる方法がある。ただし、他の人に手伝ってもらう必要があるから、安く済んだ土地代の一部をその人に渡してほしい」と言われたことを思い出します。
実は、Tさんが名義貸しをして分家住宅を建築し、登記する際にTさんからMさんへ売買したように見せかけて、Mさんの新居となっていました。
当時は融資の審査がゆるかったこともあり、こういった名義貸しがまかり通っていたようです。
現在では起こりえないことですが、建て替えの際に過去の悪だくみが発覚することもあります。
役所に記録がしっかり残っているので、問題に気付いた場合には行政書士や自治体に相談しましょう。
市街化調整区域の建て替えで注意するポイント
市街化調整区域の建物を建て替える際、注意するポイントは次のとおりです。
違法な増改築はバレる
市街化調整区域決定後に許可を受けて建てた建物は、許可の要件(分家住宅等)、敷地面積、建物の構造・床面積が役所にも残されています。
そのため、床面積が増えていたり、建物が増えていると違法な増改築としてバレてしまいます。
こういった違法な増改築が発覚すると、是正(取壊し)するまで分家住宅などの許可を受けることができません。
亡くなった先代のしたこと、だとしても見逃されることがないので、許可された以外の建物があると分かった場合は、諦めて取り壊しましょう。
許可を受けていない納屋・倉庫は残せない
増改築と同様、許可を受けていない納屋や倉庫も都市計画法違反となります。
そのため、建て替え敷地にこのような違反建物がある場合には取壊さなければなりません。
地目が宅地になっていない場合は地目変更する
農地に分家住宅を建てた場合は必ず農地転用の許可も受けていますが、農地のままの土地が何度かありました。
建物新築後の地目変更登記(田畑→宅地)を忘れていただけでしたが、農地法の許可証を忘れていた場合など、手続きが遅くなる可能性があるので、土地の地目が農地のままの場合は土地家屋調査士に依頼して、地目変更をしておきましょう。
まとめ
分家住宅の建て替えや増築は、市街化調整区域ならではの制限や手続きが多くあります。しかし、それらのポイントをしっかり押さえることで、スムーズな建て替えが可能になります。以下の項目を確認し、一歩ずつ進めていきましょう。
おさえるべきポイント
居住者の限定:分家住宅は建築主とその配偶者・子・孫の直系卑属のみが居住可能であり、貸借や転売は禁止されています。
建て替えは「新築扱い」:市街化調整区域では建て替えも新築同様、原則として許可が必要で、増築についても規模によっては許可または事前相談が求められます。
愛知県で許可不要となる増築条件:①同一所有者、②同一用途(専用住宅)、③同一敷地であること、かつ増築規模が元の1.5倍以内であれば、相談により許可が不要となる可能性があります。
過去の違法な増改築や、許可なしの納屋・倉庫があると是正(撤去)が義務付けられます。
農地転用後に宅地変更登記がされていない場合は、地目変更が必要です。
名義貸しや無許可購入の場合、建て替えが不可となるリスクがあります。
以上のポイントをおさえて、スムーズに建て替えを行いましょう。
リフォームという選択肢
本記事を読んで「市街化調整区域の建て替えは大変そう。リフォームなら・・」と感じた方は、リフォームを検討しても良いでしょう。
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