市街化調整区域で分家住宅を建てるには、さまざまな条件や手続きが必要です。
本記事では、申請者や土地に関する要件、建築に必要な許可や費用を具体的に解説。さらに、トラブル回避のポイントも紹介します。専門家への相談方法も網羅しているので、スムーズな計画実現のための参考にしてください。
市街化調整区域とは?分家住宅の基礎知識
市街化調整区域は、都市計画法で定められた土地利用区分です。都市の無秩序な拡大を防ぐため、原則として開発や建築が制限されています。
しかし、昔から当該地域に住んでいる人の子や孫は分家住宅の建築が許可されます。これは、親世帯から独立する新たな世帯が自己用住宅を建てるための制度です。
分家住宅は「地域住民の生活維持」と「都市計画の調和」を両立させる重要な仕組みと言えます。
分家住宅を建築できる条件
申請者に関する要件
分家住宅を建築するには、以下の条件を満たす必要があります。
- 申請者が市街化調整区域決定前から住んでいる世帯の直系卑属(子や孫)であること。
- 結婚など、新たな世帯形成が必要であること。
- 本人、配偶者、親・祖父母が他に住宅建築可能な土地を所有していないこと
※利用可能な市街化区域の土地を持っている場合もNGです
これらの条件を満たさない場合は、許可が下りませんので注意が必要です。
土地に関する要件
土地についても厳しい基準があります。愛知県の一般分家住宅の場合の主な要件は次のとおりです。
- 土地は市街化調整区域指定前(昭和45年11月23日以前)から所有されている
- 建築予定地が「既存集落内」またはその周辺に位置している
- 農地の場合は、農地転用許可が必要
これらの条件は建築地を決める際に必ず確認すべき内容です。確認方法は行政書士に依頼することも可能ですが、最終的には許可権者に事前確認します。愛知県の場合の許可権者は愛知県知事で、各管轄の建設事務所建築住宅課です。事務処理市(稲沢市、半田市、安城市、豊川市など)は各市の建築課等で相談します。
建物に関する要件
分家住宅として認められる建物には以下の制約があります。
- 自己用住宅として使用すること。他人への賃貸や売却は禁止されています。
- 必要以上に大きな建物(過大規模)は認められません。※敷地は原則、500㎡未満
- 原則、二世帯住宅は建てられない※新たな世帯のための住宅
分家住宅建築の手続き
必要な許可と申請
分家住宅を建てるには、以下の許可申請が必要です。
- 都市計画法29条(開発許可):市街化調整区域内で建物建築、造成するための許可
- 都市計画法43条(建築許可):土地を整地するのみで、造成(土地の切盛り)が30cm未満の場合は、開発許可ではなく建築許可を取得すれば大丈夫です
※事務処理市の一部(安城市など)は造成基準が違います - 農地法5条:建築地が農地の場合は、開発許可(または建築許可)と同時に申請して、同時に許可を受けます
- その他の許可:建築敷地が接している道路に側溝が無い場合は、排水のために道路占用許可や承認工事の手続が必要です
- 土地分筆登記:建築したい敷地が広い場合は境界確定測量、土地分筆登記が必要です
※市街化区域で使われるような、いわゆる「机上分筆」は認められません
手続きが複雑な場合は、専門家への依頼がおすすめです。行政書士や土地家屋調査士がサポートしてくれます。
事前相談・許可申請手続きの流れ
以下は分家住宅の一般的な手続きの流れです。
- 事前相談①:窓口(尾張建設事務所等)で事前相談を行う。初回でも最低限、建築したい土地の登記簿謄本、公図、住宅地図(グーグルマップ可)、簡単な家系図(昭和45年以前からの所有者の流れ)は持参しましょう。
- 事前相談②:初回で指示された追加書類(戸籍謄本、名寄せ台帳、理由書など)を提出する。他に所有地があればリスト化して、どうして利用できないかを書く
→役所の担当者から「分家住宅要件あり」の回答が得られれば事前相談は完了です - 建築設計打ち合わせ:ハウスメーカーや工務店と建築に関する打ち合わせを行います。建築許可申請までに平面図、立面図、配置図、排水計画図を確定させます。
- 確定測量・分筆:土地の分筆が必要であれば、設計打ち合わせと同時進行で、境界確定測量・土地分筆登記を行います(2~3ヶ月程度)
- 開発許可(または建築許可)申請、各種申請(農地転用許可など)を行う
※農地転用が必要な場合は、毎月1回(愛知県の場合)の締切日があるので注意 - 許可完了(申請から完了まで、農地であれば2ヶ月弱、非農地であれば1ヶ月程度)
- 開発許可の場合は、造成の着手届、完了検査、建築確認申請の順番で行います。
建築許可(造成が整地のみ)の場合は、建築許可証を添付して建築確認申請に進みます。
分家住宅の許可手続きにかかる費用
分家住宅建築までに必要な費用は次のとおりです。
許可申請費用
分家住宅の許可取得には以下の費用がかかります。
- 建築許可申請(分家住宅の場合):25万円~35万円程度
※開発許可の場合は+5~10万円 - 農地転用許可申請:15万円~25万円程度
- 土地改良区除外手続き:土地改良区1件につき5万円程度
- 地元承諾:地元役員、農業委員などの同意が必要な場合は1人につき2万円前後
- 道路占用許可等:各種手続き内容により、10~30万円程度
その他関連費用
その他にも以下の費用が発生する場合があります。
- 境界確定測量:50~70万円程度(場所、広さにより変動します)
- 土地分筆登記費用:5~7万円前後
- 現況測量費用:建築地の高低差、構造物などを測量する費用として5~10万円必要です
- 土地改良区決済金:土地改良区除外にかかる費用で、1㎡あたり10円~400円程度
※300㎡の除外手続きで、複数の改良区の除外が必要であれば15万円程度かかる場合もあります
非農地・農地の場合、分筆の有無で4パターンを考えると、概算は下記のとおりです。
(非農地) 建築許可 分筆なし | (非農地) 建築許可 分筆有り | (農地) 建築許可+農地転用 分筆なし | (農地) 分家住宅+農地転用 分筆有り | |
建築許可 | 25万円 | 25万円 | 25万円 | 25万円 |
農地転用 | なし | なし | 20万円 | 20万円 |
改良区決済金 | なし | なし | 10万円 | 10万円 |
測量・分筆 | 10万円 ※現況測量 | 70万円 | 10万円 ※現況測量 | 70万円 |
その他実費 | 3万円 | 5万円 | 13万円 ※決済金+実費 | 15万円 ※決済金+実費 |
概算合計 | 約38万円 | 約100万円 | 約78万円 | 約140万円 |
総額が100万円を越える場合も少なくありません。ただ、建築敷地を330㎡(100坪)、1坪3,800円~1万4000円で土地を購入したと考えれば、比較的割安かもしれません。
注意点と課題
分家住宅の許可手続きを進めるにあたり、注意点と課題は次のとおりです。
許可見込みが出ない場合
事前相談で分家住宅の許可見込みが出ない主な理由は以下です。
- 土地や申請者が要件を満たしていない:線引き前所有ではない、申請者が結婚していない(結婚予定は証明できればOK)
- 他に持ち家や適切な土地を所有している場合:本人・父母・祖父母の所有地の中から消去法で決まるため、「本家の近くだから建てたくない」などは認められません
- 建物が過大規模である場合や用途不適合の場合:500㎡を超える敷地の場合は開発審査会が必要ですが、分家住宅で500㎡超えの敷地は規模が過大過ぎて、原則許可は受けられません
→愛知県の場合は農家住宅(都市計画法29条2項)であれば1,000㎡まで可能なため、こちらを検討しても良いでしょう
これらの場合、計画自体が頓挫する可能性がありますので注意してください。とくに、許可権者の事前見込みが出る前に建築契約を締結することは危険です。許可要件が取れなければ土地選定からやり直しになってしまいます。
属人的制約と不動産価値への影響
分家住宅は属人的な制度であり、許可を受けた人とその家族しか利用できません。他人への売却や賃貸は禁止されています。そのため、不動産価値も低くなる傾向があります。また、住宅ローン審査でも不利になる可能性があります。
ただ、売却に関しては愛知県であればやむを得ない事情(破産、競売、死亡等)があれば用途変更の許可(基準16号)を受けて売却が可能です。また、住宅ローンも地元の信用金庫やJAであれば可能な場合もあります。
分家住宅としての建築は制約もありますが、対応策も探せば存在します。
専門家への依頼と相談方法
メリット
専門家へ依頼すると手続き負担が軽減されます。また、書類作成や要件確認も正確性が向上します。特に行政書士や土地家屋調査士はこの分野で経験豊富です。
費用感と選び方
専門家への依頼費用は40万円~100万円を越えるケースもあります。ただ、初回相談無料の場合も多いため、まず見積もりを取りましょう。
まとめ
分家住宅制度は地域住民生活維持に重要な役割を果たしています。しかし、その運用には多くの制約と課題があります。計画段階から専門的知識を活用し、自治体との連携を密に行うことで成功率を高めましょう。
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