市街化調整区域の土地が売れない理由を徹底解説。建築制限やインフラ、住宅ローン審査の壁など、売却が難しい背景を深掘りします。
既存宅地や用途変更許可など売却成功への裏ワザも!
この記事で市街化調整区域の土地の魅力や具体的な売却方法を知りましょう。
市街化調整区域とは?基礎知識を確認
市街化調整区域とは、都市計画法に基づき、無秩序な市街地の広がりを抑制するために設定された区域です。
この区域では、住宅や商業施設などの建築が原則として認められません。自然環境や農地の保護が主な目的となっているからです。
また、都市計画区域の一部として位置づけられており、建築制限が非常に厳しいです。そのため、不動産を売りたいと思っても、売却が難しいケースが多いのが現状です。
市街化区域と市街化調整区域の違い
市街化区域と市街化調整区域の違いは、想定されている土地の利用計画です。
都市計画法では、市街化区域は積極的に都市開発が推進されるエリアと規定しており、住宅や商業施設の建築が可能です。
一方、市街化調整区域は、市街化を抑制するエリアと設定されています。そのため、開発や建築が制限されています。
この違いにより、市街化区域に比べて市街化調整区域内の土地の売却や活用は難しく、都市計画法に関する専門的知識が必要となります。
市街化調整区域で建物を建てるためには許可が必要
市街化調整区域内で建物を建てる場合、都市計画法の許可が必要です。これは、「市街化調整区域は建物の建築が原則禁止」されており、その禁止行為を行うためには特別に許可を受ける必要があるからです。
この特別な許可は開発許可(または建築許可)と呼ばれます。そして、都道府県知事(指定都市又は中核市の長)により許可されます。
一般的な住宅(専用住宅)を建築するための許可を受ける条件は、主に下記の3つです。(愛知県の場合)
※農家住宅は厳密に言うと、許可ではなく適用除外(許可不要の建物)です
- 分家住宅(愛知県開発審査会基準第1号):市街化調整区域決定前(昭和45年11月23日以前)から存在した世帯の子・孫が結婚等で独立する場合に認められる住宅
- 既存宅地(愛知県開発審査会基準第17号):市街化調整区域決定前(昭和45年11月23日以前)から現在まで宅地である土地で建物を建築する場合
- 農家住宅(都市計画法第29条第2項):市街化調整区域で農業を営む農家のための住宅
市街化調整区域での住宅建築には、この3ついずれかの条件を満たす必要があります。
建物建築以外の活用方法
建物建築が難しい市街化調整区域の土地でも、活用方法がないわけではありません。
たとえば、農地としての使用や、駐車場、資材置き場などの非建築用途への転用を検討することが可能です。
また、観光地やキャンプ場に近い地域では、自然環境を活かしたアウトドア施設や地元産品の直売所などとして利用される場合もあります。
住宅建築については基本的に前述の3つです。しかし、医療施設、店舗など日常生活に必要な建物については別の基準があります。これらの基準を満たしていれば許可を受けて建築が可能です。
そのため、事業者の方が土地を気に入れば、市街化調整区域の土地でも売却は可能です。
不動産会社に相談することで、その土地に合った活用方法を提案してもらう方法もあります。
市街化調整区域の土地が売れない主な理由3つ
市街化調整区域の土地が売れない(人気がない)理由は、主に次の3つです。
- 建物が建っていても多くの物件は再建築できない
- インフラの整備状況が悪い
- 住宅ローン審査が通りにくい
それぞれについて詳しく解説します。
建物が建っていても多くの物件は再建築できない
市街化調整区域内の土地に建物が建っていても、その多くは再建築ができない建物です。
既にご紹介した通り、市街化調整区域で建てられる住宅は限られています。そして分家住宅や農家住宅の許可には、建築主に属人性と呼ばれる要件が必要です。
分家住宅であれば市街化調整区域決定前から住んでいる人の子や孫、農家住宅であれば農業を営んでいること、といったその人特有の要件を属人性と呼びます。
そのため、分家住宅・農家住宅は建築主とその家族しか居住することができません。そして、再建築の際にもその要件を満たしているかが確認されます。
たとえば分家住宅を全く関係ない第三者が購入し、再建築しようとしても建築確認申請でストップがかかります。建築確認申請の際に、建築主が許可を受けた人との関係が確認されるからです。
市街化調整で建てられる住宅は限られており、このように第三者が購入して建てられない建物(分家住宅や農家住宅)が多いため、市街化調整区域の物件は敬遠されてしまいます。
インフラの整備状況が悪い
市街化調整区域内の土地は、上下水道や都市ガスなどのインフラが十分に整備されていない場合があります。エリアによっては電気や通信網についても不安定な地域があります。
インフラの整備状況が悪いことは、生活環境としての利便性が低いと判断される場合があります。
更に、住宅を新築する際に土地が安く手に入っても、上水菅の引き込み工事、道路側溝の整備などで数十万円~数百万円の余分な工事費用が加算される恐れもあります。
このようにインフラの整備状況が悪いことで不動産の価値が低く見積もられ、売却が困難になることも少なくありません。
住宅ローン審査が通りにくい
市街化調整区域内の不動産を購入する際、住宅ローンの審査も大きな壁となります。
金融機関は、住宅ローン審査では購入する土地の担保価値も重要な判断要素です。
まずは再建築できるかどうか、そしてインフラの整備状況が悪いと評価額は下がり、都市部への利便性が悪い場合には更に住宅ローン審査の条件は悪くなってしまいます。
特に再建築不可である場合や、利用用途が不明確な土地ではさらに審査が通りにくいです。
このような条件は、売買の際にネガティブな要因となりやすく、土地を売りたい売主にとって大きな障害となっています。
それでも市街化調整の土地を買いたい人はいる
ネガティブな内容ばかり紹介しましたが、それでも市街化調整区域を買いたいという人は多く存在します!
用途制限(属人性)や住宅ローンの問題で購入できない、というケースもあるようです。
ここでは、次の3つの市街化調整区域の魅力について解説します。
- 広い敷地が手に入る
- 自然豊かで静かな環境
- 固定資産税が安く済む
広い敷地が手に入る
市街化調整区域の宅地は基本的に広いです。
理由は、農業を前提としている住宅(居宅に加えて農機具倉庫、収穫物の倉庫など)が多いことや、農地を宅地に変える際に「せっかくなので」と許可を受けられる最大値ギリギリ(愛知県の分家住宅は499㎡、農家住宅は999㎡まで可能)まで転用するからです。
また、市街化区域に比べて地価が低いため、広い土地が購入できるメリットがあります。
自然豊かで静かな環境
都市計画法で市街化調整区域を設定する目的は自然環境や農地の保護です。そのため、市街化調整区域は基本的に自然豊かで静かな環境です。
自然豊かと言ってもテレビに出てくるような「山奥の一軒家」状態ではありません。都市計画区域内のため市街化区域と隣り合っており、商業エリアへは車で数十分という場所が多くあります。
少し不便だけど自然と静かな環境が好き、という方にはお勧めのエリアです。
固定資産税が安く済む
市街化調整区域の固定資産税は、市街化区域に比べて固定資産税が安いことも特徴です。理由は2つあります。
- 都市計画税がかからない
- 地価が安い
一般的に言う固定資産税には、都市計画税と固定資産税があります。市街化区域では両方課税されており一緒に請求されています。そのため、気にしていない方も多いのではないでしょうか。
しかし、市街化調整区域の場合には都市計画税は非課税です。その分市街化区域よりも固定資産税が安く済んでいます。
また、地価が安いこともあり、結果として固定資産税が安いと言えます。
このように、自然豊かで静かな環境、広い敷地に魅力を感じて、市街化調整区域の土地を探している人もいることは覚えておいてください。
市街化調整区域の土地売却前に確認すべきこと
前述のとおり市街化調整区域の土地は魅力があり購入希望者もいます。しかし、規制が分かりにくいこともあり、適正な取引が難しい不動産と言えるでしょう。
そこで、この章では市街化調整区域の土地を売却する場合に売主として最低限確認すべきポイントをまとめました。
- 土地の地目(宅地or農地)
- 建物が適法に建築されたものかどうか
- 再建築できるかどうか
土地の地目(宅地or農地)
市街化調整区域にある土地を売却する際には、土地の地目を確認することが重要です。
地目は「宅地」か「農地」かによって売却方法や手続きが異なります。そのため、正確に把握しておく必要があります。
不動産会社に依頼する前に、土地の登記簿謄本などで地目を確認しておきましょう。
宅地の場合
地目が宅地の場合、比較的売却がスムーズに進む可能性があります。
ただし、宅地になった時期によって売値、売りやすさが大きく変わります。
愛知県では、『市街化調整区域決定前(昭和45年11月23日以前)からの宅地』であれば、「既存宅地」として誰でも許可を受けて住宅建築できる土地として、場所によっては市街化区域と同レベルの査定額になることもあります。
一方、市街化調整区域決定後(昭和45年11月24日以降)に宅地となった土地は「既存宅地」の要件がありません。そのため、既存宅地と区別して「新宅地」と呼ばれます。
「新宅地」は再建築できない土地のため、一般的な市街化調整区域の土地と扱われます。
既存宅地の細かい規定については、こちらの記事で分かりやすく解説しています。
農地の場合
地目が農地である場合、売却には「農地法」に基づく許可が必要です。
農業委員会の許可を得ずに売却を進めることはできません。
農地はその用途から買い手が限られ、不動産市場では売りにくい物件とされています。そのため、農地としての活用が可能な買い手(農家や農業生産法人など)、農地の取り扱いに強い不動産業者やJAに依頼すると良いでしょう。
建物が適法に建築されたものかどうか
市街化調整区域内の土地に建物が存在する場合、その建物が適法に建築されているかを確認する必要があります。これは、既存宅地・新宅地でも変わりません。
そして、建物が適法に建築されたかどうかは、建築確認申請の有無で判断できます。
不動産売却を検討している場合で建物があれば、その建物の建築確認申請を探します。見つからない場合には、市町村役場に問い合わせてみましょう。
愛知県の場合は各建設事務所(尾張、知多、西三河、東三河、知立)または市役所で「建築計画概要書の閲覧」という手続きで照会可能です。古い建物については、役所のデータが残っていないこともあります。
参考リンク:愛知県尾張建設事務所 建築課(建築計画概要書・開発登録簿の閲覧)
「適法に建てたハズだけど資料がない」、「調べ方が分からない」、という場合は行政書士・建築士に依頼して調査してもらいましょう。
過去の建築確認申請の履歴が無ければ、その建物は違法建築物かもしれません。
違法建築物があると売却がさらに困難になります。そのため、不動産会社に査定を依頼する際も、この点をきちんと説明しておきましょう。
再建築できるかどうか
市街化調整区域における土地売買の際、再建築が可能かどうかも重要な確認事項です。
特に中古住宅を売る場合、再建築の可否は買い手にとって重要な判断材料となります。
再建築が可能であれば、用途や条件を明確にしておきましょう。そうすれば、買い手にとって魅力的な物件となる可能性があります。
一方、再建築不可の場合は、不動産業者を通じた売却や活用を検討する必要があります。
再建築できるかどうかは専門的な知識が必要なため、専門家に調査を依頼しましょう。
市街化調整区域の土地を売却する裏ワザ
ここでは市街化調整区域の土地を売却する裏ワザを紹介します。
既存宅地(愛知県開発審査会基準第17号に該当)の場合
愛知県開発審査会基準第17号の条件に該当する「既存宅地」の場合、売却は可能です。
ただし、不動産会社に既存宅地に該当しているかどうか確認することが必要です。また、買主側が市街化調整区域の規制に理解を持っていることも重要です。
これは裏ワザというレベルではありませんが、基本的なものとして知っておきましょう。
適法に建築された建物(分家住宅、農家住宅)の場合
分家住宅や農家住宅として適法な建物でも、原則、第三者による再建築はできません。
しかし例外があり、分家住宅・農家住宅を建築した方が破産した、収入が無くなり維持管理できなくなった、病気で住めなくなったなどの事情があれば、「特別な事情によるやむを得ない用途変更(=所有者の変更)」ということで、許可を受けて第三者に売却することができます。
そして、この許可を受けて購入した買主は再建築も可能で、一般的な住宅と同様に使うことができます。
このような「用途変更」の許可は多くの都道府県で規定されています。愛知県の場合は愛知県開発審査会基準第16号に該当します。
この16号の許可は購入希望者にとっても利用価値が見込まれ、売却に有利です。この制度について詳しい解説はこちら↓
ただし、売買の際には都市計画法に基づく過去の許可・現在の建物状況、所有者の状況などの確認が必要です。不動産会社を通じて正確な裏付け調査、役所への確認をしましょう。
違反建築の場合は買取業者へ
過去の建築確認申請の履歴を調べてみると、「建築確認申請を出さずに建築していた」、「無断で増改築していた」、「名義貸しで建ててもらい、買い取っていた」などの事例が発覚する場合があります。
このようなケースでは、通常の不動産売買が難しいです。そのため、専門の買取業者への売却を検討すると良いでしょう。買取業者は、修繕や建物の撤去を前提に土地を買い取るケースが多く、市場価値よりも低い価格での取引になることがあります。
しかし、効率的に問題を解決できる場合も多いため、売却が困難な土地の処分方法として有力です。不動産会社や買取業者との相談を通じて、最適な選択肢を探すと良いでしょう。
再建築不可物件での売却はリスクが高い
分家住宅や農家住宅を売りに出すと、「リフォームするだけだから」と購入希望者が現れるかもしれません。
しかし、分家住宅や農家住宅を用途変更の許可無く、住宅として売買してしまうと都市計画法違反となります。また、当事者がどんなに合意していても、数年後のトラブルにつながるリスクもあるため、絶対に止めておきましょう。
このような物件を売却する場合は、不動産会社にリスクを事前に相談し、適切な価格設定や売却戦略を立てる必要があります。さらに、買取業者を利用してスムーズに処分する方法も一つの解決方法です。
まとめ
市街化調整区域の土地を売却するには、「売れないとされている理由」をしっかりと把握しておきましょう。主な理由は次の3つです。
- 建物が建っていても多くの物件は再建築できない
- インフラの整備状況が悪い
- 住宅ローン審査が通りにくい
しかし、過去の建築確認申請の記録を確認すれば再建築できないかどうかは判明します。そして、実は既存宅地として市街化区域並みに売却できる土地だった、という可能性もあります。
市街化調整区域の土地に魅力を感じる方もいて、実際には売買も成立しています。
私が前職でお世話になっていた「ハウスドゥ安城」でも既存宅地、用途変更許可後の売買などを仲介していただきました。市街化調整区域の取り扱いに慣れた不動産業者ですので、一度相談してみてはいかがでしょうか?
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