
市街化調整区域――都市部から少し離れたのどかな景観に魅せられ、「広い土地でのびのび暮らしたい」と家づくりを検討する人が増えています。
ところが、いざ建築許可や生活インフラ、住宅ローンの現実に直面すると「こんなはずじゃなかった…」と後悔するケースも少なくありません。
本記事では、行政書士事務所で500件超の許可取得をサポートしてきた経験を踏まえ、実際に施主がつまずきやすい“後悔ポイント5選”を徹底解説。
メリットと注意点、信頼できる建設会社の選び方まで網羅し、市街化調整区域でも納得のマイホームを実現するための道筋を提示します。
市街化調整区域は、都市計画区域のひとつ
市街化調整区域は都市計画法で定められた都市計画区域の一つです。
そして都市計画法上、都市計画区域には次の3つがあります。
・市街化区域
・市街化調整区域
・非線引き区域
それぞれについて詳しく解説します。
市街化区域
市街化区域は10年以内に優先的に市街化を進める区域、または既に市街化が進んでいる区域です。
いわゆる都市部で役所が近く、商店街や住宅地があるようなエリアです。
市街化区域の建築・開発に関する規制は「どのような建物を建てるか」といった規制がほとんどで、建築・開発が前提となっている規制です。
そのため、住居専用地域であれば住宅中心、工業地域であれば工場メインで住宅が建てられないなど用途制限はあるものの、市街化区域であれば基本的に建物は建てられます。
また、農地であっても生産緑地を除いて基本的に農地転用の届出を行うだけで宅地転用が可能です。
市街化調整区域
一方、市街化調整区域は市街化を抑制するエリアです。
そのため、建物の建築・開発行為は原則禁止されており、不動産取引も市街化区域に比べるとかなり少ないです。市街化調整区域は都市部から少し離れた、田園風景の広がる景色をイメージしてください。
ただ、建物が一つも無いかと言えば、そうではありません。
建物や店舗が立ち並んで集落を形成していることもあります。
これは、市街化調整区域決定前から住んでいる人の家、その人たちの子孫が特別な許可を受けて住宅(分家住宅)を建てていたり、地元に必要な店舗・病院・学校などが建設されている場合があります。
また、農林水産業を営む人たちが住むための住宅(農家住宅等)も建築可能です。
市街化調整区域でこれから家を建てようという方は、このような特別な許可を受けて建築することとなります。
非線引き区域
都市計画区域の中で、市街化区域・市街化調整区域を決めていないケースもあり、そういった区域は非線引き区域と言います。
市街化区域と市街化調整区域の「線引き」をしていないために、こう呼ばれます。
非線引き区域は地元の都市計画に基づき、用途地域が定められることもありますが、基本的には建物の建築・開発が可能なエリアです。
市街化調整区域の確認方法
今度家を建てようと考えている土地が市街化調整区域内かどうか知らない人もいるのではないでしょうか?
市街化調整区域かどうかを調べる方法は2つあります。
・不動産情報ライブラリ(国土交通省サイト)で調べる
・市町村役場で直接確認する
それぞれについて解説します。
国土交通省のサイト(不動産情報ライブラリ)で確認する
不動産情報ライブラリは国土交通省の運営するサイトで、不動産の取引価格、公示価格などの価格情報や防災情報、都市計画情報、周辺施設情報など、不動産に関する情報を見ることができます。
無料でいつでも24時間(メンテナンス時間以外)使えるため、手軽に調べられます。
使い方はこちらの記事(誰でもできる!市街化調整区域の簡単な調べ方)で解説しています。
市町村役場で直接確認する
インターネットを使って自分で調べるのが不安、という方は市町村役場で直接確認することをお勧めします。
都市計画法に関する情報は各市町村役場の都市計画課等で確認することができます。
窓口であれば自分の持っている土地の地図・住所地番を伝えると、担当者が確実に調べて教えてくれるので安心です。
ただし、窓口が空いている平日に行く必要があるので注意が必要です。
市街化調整区域で家を建てた方が後悔すること5選
私は行政書士事務所の勤務で500件以上の許可を通して市街化調整区域での住宅建築に携わってきましたが、デメリットを十分理解されて建築した方ばかりでした。
相談の中で施主様が実は気にしていたこと(デメリット)を5つ紹介します。
これを知らずに建ててしまうと後悔することになるので、注意しましょう。
ほとんどのエリアが浄化槽
愛知県の市街化調整区域の場合、上水道は整備されていますが下水道はほぼ未整備でした。
そうなると浄化槽を設置することとなり、5人槽(延べ床面積130㎡未満)の浄化槽でも100~150万円の設置費用がかかり、法定点検などの維持費に数万円かかります。
ただ、豊田市のように合併浄化槽の補助金制度(36万円~58万5千円)のある市町村も存在しますので、ご自身の自治体を調べてみましょう。
なお、市街化区域に隣接して直接下水道を引き込めるエリアであれば、「区域外流入」という手続きで下水に接続できる場合もあります。
さらに、集落排水という下水のような排水システムのある地域(弥富市、愛西市)もあり、利用方法は下水とほぼ変わりません。
プロパンガス
市街化調整区域では都市ガスの普及も遅れており、プロパンガスの利用がほとんどでした。
プロパンガスは都市ガスに比べて人件費が高いため、結果として月々のガス料金が割高となってしまいます。
オール電化なども含めて、毎月の光熱費も考えて土地選びをしましょう。
駅・学校・スーパーが遠く車が必需品
市街化調整区域は中心部から離れるため、どうしても駅・学校・スーパーなどからは離れてしまいます。
特に学校や駅が遠いと子どもさんの通学に大きな影響があり、送り迎えなども必要になるかもしれません。
市街化調整区域に家を建てたものの、高齢になって免許返納して生活できなくなり、手放した方もいらっしゃいました。
ただ、市街化調整区域も場所を選べば学校が近かったり駅の近くだったりと、穴場も存在します。
市街化調整区域の中でも便利な土地をじっくり探してみてはいかがでしょうか。
住宅ローンの審査で苦労した
市街化調整区域の住宅建築で大変なことは住宅ローン審査です。
厳密には家を建てる前に終わる話ですが、一部の金融機関は仮審査すらしてもらえなかったということもありました。
市街化調整区域の建物は転売ができず、土地の評価も高くないことが多く、担保価値が低く見られてしまいます。
そのため、市街化調整区域の建物では住宅ローンを受け付けていない金融機関も実在します。
詳しくはこちらの記事(分家住宅は住宅ローンが通らない?100件以上のローン成功事例の傾向とは)を参照してください。
しかし、地元の信用金庫やJAなど、市街化調整区域が得意な金融機関もあるので、そんなに悲観することはないでしょう。
実家が近い
分家住宅などの要件を使って許可を受けて家を建てる場合、夫か妻のどちらかの実家の近くで家を建てることとなります。
何割かの方は実家の敷地を一部分筆して建築することもあります。
ただ、これについては土地代がかからない、子どもを預けられるなどのメリットもあるため、一概にデメリットとは言えないでしょう。
ここでは代表的な、知らないと後悔することを紹介しましたが、実際にはこれらのデメリットを知りつつも、私のお客様たちはマイホームを建てられました。
次の項目では、知られざる市街化調整区域のメリットを同じく3つご紹介します。
市街化調整区域で家を建てるメリット3選
市街化調整区域で家を建てるメリットは多くありますが、代表的なものを3つご紹介します。
土地を安く購入できる
大規模分家住宅の要件があれば、農地でも購入して住宅を建てられるため、土地を安く購入することができます。
また、親・祖父母の土地に建てるのであれば土地代は0円です。
もちろん開発許可・農地転用許可等の手続き費用はかかりますが、土地代に比べればお値打ちと言えるでしょう(20万円~200万円程度)。
そして土地代に支払うはずだったお金を建築費用に充てたり、ローン金額を減らしたりと様々な恩恵が受けられます。
固定資産税が安い
市街化調整区域は都市計画税(固定資産税評価額の0.4%)が非課税であり、更に元々の土地評価額が市街化区域よりも安いため、毎年の固定資産税が安くなる傾向にあります。
土地購入と合わせて、税金面でも大きなメリットと言えます。
自然豊かで静か
市街化調整区域は農地や自然を維持する区域のため、のどかで緑が多く、静かな環境が好きな方には最高のシチュエーションです。
市街化調整区域で家を建てた人はこんな人が多かった
私がお会いした市街化調整区域で家を建てた方々の特徴をまとめました。
市街化調整区域で家を建てたいけど、建てた後に後悔しないだろうかと心配な方は、参考にしてください。
親子の仲が良い
分家住宅を建てられた方々は、ほぼほぼ親子の仲が良く、適度な家族関係を維持されていました。
親の土地に家を建てるという話ができるくらいなので当然かもしれませんが、住宅資金援助を受ける方もおり、実家と仲良くしておくのは家づくりでも大切なことでしょう。
広い土地で家を建てたい
親の土地に建てられる方、土地を購入して建てられる方のどちらでも、土地の広さを重視している方が多かったです。
土地が安いために広い土地を買える、親の土地なので出来る限り広くする、などの理由で広い敷地に建てられる印象です。
敷地面積は既存宅地であれば50坪~80坪、分家住宅なら100坪~150坪で、建築面積15坪~20坪前後でした。
駐車場や物干し場、家庭菜園を確保する方もいらっしゃいました。
自然が好き
昔から山や川で遊んでいて自然が好き、家族でキャンプに行ったりとアウトドア派なご家族もよくいらっしゃいました。
夜は暗いけど満天の星空を楽しむ、草むしりは大変だけど家庭菜園を楽しむなど、不便さも楽しむような方が向いているのかもしれません。
市街化調整区域で家を建てる際の注意点
ここまでの内容で市街化調整区域での家づくりに興味を持った方には、次の注意点を知っておいていただきたいのでお伝えします。
デメリットではなく、注意点です。
市街化調整区域での建築には許可が必要
まず、市街化調整区域での住宅建築には都道府県知事(または中核都市等の市長)の許可(開発許可または建築許可)が必要です。
その許可は愛知県であれば分家住宅や既存宅地などの要件を満たした場合に取得できます。
分家住宅の許可は市街化調整区域に昭和40年頃から住んでいる方の子・孫のみの要件であり、既存宅地は市街化調整区域決定前から宅地である土地に限られます。
市街化調整区域の土地を探す際には、都市計画法の許可が必要だということを知っておきましょう。
既存建物でも、購入して住むために許可が必要
まれに市街化調整区域の土地建物(住宅)が販売されていますが、購入して住むためには許可(開発許可または建築許可)が必要です。
既存建物であれば以前は誰かが許可を取得して建てた建物であり、本来はその人とその家族しか住むことができません。
何らかの事情で手放した場合、新たに許可を受ければ第三者が購入して住むことが可能となります。
この許可は用途変更の許可と言い、愛知県では開発審査会基準第16号で規定されています。
この許可を取らずに購入してしまうと、住んでいるだけで都市計画法違反となり、建て替えしたくても建築確認でストップしてしまい、住むことも・売ることもできないという状況に陥ってしまいます。
市街化調整区域は既存建物を購入する場合でも許可が必要なことに注意しましょう。
許可には費用がかかる
市街化調整区域の許可(開発許可または建築許可)は建築士か行政書士に依頼して代行してもらう必要があり、申請費用がかかります。
許可の難易度によって、20万円~200万円と幅がありますので、依頼前に必ず見積もりをとっておきましょう。
市街化調整区域の建築が得意な建築会社を見つける方法
これから市街化調整区域で家づくりを行うかどうかは、「プランと費用」を見比べる ことが欠かせません。
そこで重要になるのが 複数社に相見積もりを取り、比較検討するプロセス です。
なぜ複数社の見積もりが欠かせないのか?
複数社に見積もりを依頼する理由は次のとおりです。
提案の幅が広がる
会社ごとに得意分野や設計思想が異なるため、提示されるプランも千差万別です。
複数案を並べることで「自分の暮らし方に本当に合う提案」が見えてきます。
コストの妥当性を確認できる
同じ条件でも総工費に数百万円単位の差が生じることは珍しくありません。
金額の根拠を比較することで、適正価格が判断しやすくなります。
コミュニケーション力を見極められる
市街化調整区域の家づくりは事前相談、許可手続き、着工、完成と長期戦です。
初期対応の丁寧さや質問への回答速度は、そのまま期間中のストレス軽減につながります。
特に、市街化調整区域での許可経験の有無は建築スケジュールに大きく影響し、変な会社に当たってしまうと最悪、「許可が取れない」という事態も起こってしまいます。
後悔しないための建設会社選びチェックリスト
建設会社選びで後悔しないためのチェックリストをご紹介します。
チェック項目 | 確認ポイント | |
□ | 行政手続きの経験 | 市街化調整区域での建築許可取得実績が豊富か |
□ | 設計力 | 断熱・動線・将来の可変性など、暮らしやすさに配慮した提案か |
□ | 施工品質 | 施工中の現場管理体制やアフターサービスの内容 |
□ | 見積もりの透明性 | 工事項目が細かく記載され、追加費用のリスクが明示されているか |
□ | 担当者との相性 | 質問への回答が迅速・的確で、信頼して任せられるか |
このチェックリストを活用して、市街化調整区域の家づくりを一緒に行ってくれる建設会社を探しましょう。
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そんな悩みを解決するのが、無料で複数社のプランと見積もりをまとめて受け取れるハウジングバザールの一括資料請求サービスです。
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まとめ
市街化調整区域での家づくりは、広い敷地と豊かな自然を手頃な価格で手に入れられる反面、インフラや資金計画、許可手続きといった独特のハードルがつきものです。
実際の施主様の声を集めると、次のような“つまずきポイント”が後悔の種となりやすいことが分かりました。
- 下水が未整備で浄化槽が必須:初期費用100~150万円に加え、毎年の維持管理費も発生
- 都市ガスが来ないためプロパンガスを選択:光熱費が割高になりやすい
- 生活拠点(学校・駅・スーパー)が遠い:車が必需品となり、高齢期の移動手段も課題
- 住宅ローン審査が厳しい:担保評価が低く、金融機関が限られる
- 実家に近接して建てるケースが多い:地縁がメリットにもデメリットにもなる
一方で、こうした課題を上回る魅力を感じて家を建てる人が多いのも事実です。主なメリットは次の3つです。
- 土地価格が安い:親族地なら実質0円、大規模分家要件を満たせば農地でも購入可
- 固定資産税・都市計画税が軽い:評価額が低く都市計画税は非課税
- 自然豊かで静かな環境:家庭菜園やアウトドアを楽しめる田園ライフを満喫
後悔なく理想の住まいを実現するには、①区域区分と許可の要否を早めに確認し、②行政手続きに精通した専門家に相談し、③市街化調整区域の実績が豊富な施工会社を複数比較する――この三つのステップが欠かせません。
とくに最後の「施工会社選び」は、許可取得のスムーズさや総工費、住み心地に直結します。
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