農家住宅とは?一般住宅・分家住宅との違いや建てられる人の条件を元実務家が解説【市街化調整区域】

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農家住宅とは?一般住宅・分家住宅との違いや建てられる人の条件を元実務家が解説【市街化調整区域】

実家の農地や市街化調整区域の土地に家を建てたいと考えたとき、必ず耳にするのが「農家住宅」という言葉です。

「農家じゃないと建てられないの?」
「分家住宅とは何が違うの?」

と疑問に思う方も多いでしょう。

本記事では、土地家屋調査士・行政書士事務所で15年以上の実務経験を持つ筆者が、以下のポイントを分かりやすく解説します。

  • 農家住宅の定義と「建てられる人」の条件
  • 一般住宅や分家住宅との決定的な違い
  • 固定資産税の真実と、将来の「売れない」リスク

※なお、市街化調整区域の建築要件は自治体によって細部が異なります。最終的な判断は必ず役所や専門家にご確認ください。

農家住宅とは?(ざっくり解説)

農家住宅とは、一言で言えば「農家の方が、農業を営むために建てる家」のことです。

本来、市街化調整区域は「家を建ててはいけない場所(市街化を抑制する場所)」です。
しかし、そこで農業を行っている人が住む家がないと困りますよね?

そのため、「農業従事者が住む家なら、特例として建ててもいいですよ」と認められているのが農家住宅です。
都市計画法(29条1項2号)という法律で定められた、非常に強力な権利の一つです。

農家住宅の主な条件・建てられる人

では、具体的にどんな人が「農家住宅」を建てられるのでしょうか?
自治体により基準は異なりますが、一般的な要件は以下のとおりです。

1. 「農業従事者」であること

単に「実家が農家」というだけでは認められません。建築する本人(または同居家族)が、継続的に農業に従事していることを証明する必要があります。

  • 耕作面積: 1,000㎡以上など
  • 従事日数: 年間60日以上など(兼業農家でもOKな場合が多いです)
  • 農地台帳への登録: 農業委員会に登録されているか

2. 生活の本拠地であること

あくまで「農業を行うための家」なので、別荘やセカンドハウスは不可です。
現在住んでいる家が狭い、古い、農地から遠いなど、「そこに新しい家が必要な理由」が求められます。

【元実務家の助言】
「週末だけ手伝っている」程度では認められません。
しっかりと農業委員会に実績を報告し、証明書を発行してもらう必要があります。

農家住宅と「一般住宅」の違い

街中にある普通の家(一般住宅)と、農家住宅は何が違うのでしょうか?
メリットとデメリットで比較してみましょう。

比較項目一般住宅(市街化区域)農家住宅(調整区域)
建てられる人誰でもOK農業従事者のみ
土地の価格高い非常に安い(農地転用なら実質タダも)
敷地の広さ予算次第最大1,000㎡まで可能(農業用倉庫含む)
将来の売却自由に売れる原則売れない(農家以外への売却は困難)

最大のメリットは「土地代の安さと広さ」です。
一方で、最大のデメリットは「属人性(その人しか住めない)」という強烈な縛りがあることです。

ここがややこしい!「農家住宅」と「分家住宅」の違い

市街化調整区域でよく混同されるのが「分家住宅」です。
どちらも「調整区域に家を建てるための例外ルール」ですが、根拠が全く異なります。

項目農家住宅分家住宅
必要な要件職業(農業をしているか)血縁(昔から住む本家の子・孫か)
土地の種類農地でもOK原則、親族から譲り受けた土地(農地もOK)
または実家から近いエリアの土地(農地もOK)
※200戸連たんが必要
許可の手続き開発許可不要
(証明書の発行のみ)
開発許可が必要
(審査に時間がかかる)
敷地面積最大1,000㎡程度最大500㎡程度(愛知県の場合)

【結論:どっちを選べばいい?】

  • 農業をガッツリやるなら: 「農家住宅」一択です。敷地も広く使えます。
  • 農業はしない(会社員など)なら: 「分家住宅」を目指すべきです。

市街化調整区域で農家住宅を建てる流れ

農家住宅を建てる流れは次のようになり、通常は1か月半~2か月かかります。

農業従事者証明の取得

農業委員会に毎年報告書を提出していれば、申請することで「この人は農家です」という証明書をもらえます。
※農業委員会は各市町村役場にあります(名古屋市は緑区・守山区などの一部区役所で処理)。

農地転用の許可

市街化調整区域の場合、届出ではなく「許可」が必要です。
これは、農地法第5条で決められた農地を宅地に変更するための手続きであり、地主と建築主で申請します。

注意することは、農地転用の許可は原則毎月1回受付(月末か月初が多い)→約45~50日後の許可完了となるため、締め切り日と許可完了予定日を把握しておくことです。

  • 締切日はいつか?(愛知県は月1回)※農地転用の届出」(市街化区域)と間違えない
  • 許可完了まで約45~50日はかかる※1週間~10日は届出(市街化区域)の話

適合証明書の交付

愛知県知事または中核都市以上は市長による、都市計画法第29条第1項第2号に適合する証明書が必要です。
これがいわゆる「開発許可は不要ですよ」というお墨付き(適合証明書)です。

適合証明書の取得と言っても、建築計画・排水計画といった図面が必要なので、結局は開発許可等とあまり変わりません。

建築確認申請〜着工

適合証明書の取得、農地転用の許可が完了すれば、ここからは通常の家づくりと同じです。

【注意】建築会社選びで失敗しないでください

この農家住宅建築の手続きは非常に専門的です。

普通のハウスメーカーの営業マンは、このフローを理解していないことがあります。

「農家住宅なら許可いらないんでしょ?すぐ建てましょう!」

なんて言ってくる営業マンは特に危険です。

市街化調整区域の手続きに慣れている営業マンこそ「調整区域の怖さ」を知っており、より慎重になります。
「調整区域に強い工務店」を選ばないと、後で計画が白紙になることもあります。

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農家住宅の固定資産税と将来のリスク

最後に、お金とリスクの話をします。

固定資産税は本当に安いの?

「農家住宅は税金が安い」と聞くことがありますが、これは半分正解で半分間違いです。

  • 土地: 農地から宅地に変わるため、宅地並みの課税になります。(農地のままより高くなります)
  • 建物: 一般住宅と同じ評価基準で課税されます。

ただし、市街化区域(街中)に比べれば、そもそもの地価(評価額)が低いため、結果として固定資産税は安く収まることが多いです。

また、市街化調整区域の土地には「都市計画税(評価額の0.4%)」がかからないため、その面でも安くなります。

最大のデメリットは「売れない・貸せない」

農家住宅は「その農家さんが農業をするために」認められた家です。
したがって、農家以外の人に売ったり貸したりすることは、原則として禁止されています。

将来、農業を辞めたり、子供が継がなかったりした場合、その家は「誰にも売れない負動産」になるリスクがあります。

もし、すでに農家住宅や調整区域の土地を持っていて、「もう農業はしないから手放したい…」と悩んでいる場合は、調整区域に特化した不動産会社に相談することをお勧めします。
一般的な不動産屋では「取り扱い不可」と断られる物件でも、専門のノウハウがあれば売却できる可能性があります。

よくある質問(FAQ)

Q. 農家住宅を建てた後、農業を辞めたらどうなりますか?
A. 原則として、用途変更の許可が必要です。
無断で辞めて一般住宅として住み続けると、最悪の場合、是正命令(退去など)が出る可能性があります。

いずれはバレてしまうので、手続きをしてもらった行政書士や建築士に相談しましょう。

Q. 兼業農家(サラリーマン農家)でも建てられますか?
A. はい、可能です。

ただし、自治体によって「年間60日以上の従事」「農作物の出荷実績」などの要件があるため、事前に農業委員会への確認が必要です。

まとめ

農家住宅は、広い敷地に安く家を建てられる魅力的な制度ですが、「農業を続ける」という覚悟と条件が必要です。

  • 農業をやるなら「農家住宅」
  • 農業をしないなら「分家住宅」や「既存宅地」

ご自身のライフプランに合わせて、最適な制度を選んでください。
「自分の場合はどれが使えるの?」と迷ったら、まずは実績のあるプロ(工務店や専門家)に相談してみるのが一番の近道です。

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